授業詳細

CLASS


くるくる紡ぐ衣の世界
~手仕事で作る懐かしい未来のお話~

開催日時:2016年10月10日(月) 13時30分 ~ 15時00分

教室:納屋橋ラボ

レポートUP

先生: 池山 祐司 / 池山衣料研究所 代表/百姓/シンガーソングライター

カテゴリ:【くらし】

定 員 :25人

参加費(材料費、場所代含む)として1,500円を頂戴します。
あなたの着ている服の素材は、どこから来たものでしょうか?
1着の服を仕立てたことがありますか?
布を織ったことがありますか?
糸を紡いだことがありますか?

ほとんどの方は、これらの質問に対する答えは「いいえ」だと思います。
よほど手芸が好きな方であれば、服を仕立てたり、毛糸でセーターを編んだりした経験があるかもしれませんが、最近では少数派ではないでしょうか。

ひと昔前までは、子供服などは生地を買ってきて自分で作るのが当たり前でした。
さらに数十年さかのぼれば、どこの家庭でも機織りや糸紡ぎ、その原料となる繊維作物の栽培までを行っているのが普通でした。
つまり、家族の衣服を自給していたのです。



今の日本ではそんな手仕事の文化はほとんど失われ、服は買うものになりました。
ファストファッションブランドが台頭するなかで、日々海外で作られたたくさんの衣服が輸入されては使い古される前に棄てられています。
効率性を追求した「経済発展」の結果です。でもこのままだとどうでしょうか。

今回の授業では、「池山衣料研究所」を営む池山先生より、本来の衣服の役割や、衣服を生産している現場の声、これからの「衣」の在り方などについてお話いただきます。
服が溢れる社会で一体何を選んだらいいのか分からない…そんな世の中で、本当に満たされるとはどういうことなのか、見つめ直すきっかけになるかもしれません。

お話の後は、綿花から糸を紡ぐワークショップを行います。
身近な割りばしや段ボールで簡単なスピンドルをつくり、糸を紡いでいきます。どこにでもあるものを使って自分の手で糸を作り出すという体験は、ついつい忘れてしまいがちな“手仕事が持つ確かな力”をあなた思い出させてくれることでしょう。

あえて非効率な手段を残して大切にすることは、“全ての人に役割を与えること”につながります。
なにかと便利になったこの時代に人が担うべきことってなんだろう、なんて考えながら、
手仕事のぬくもりとともに、どこか懐かしい未来の姿を描いてみましょう。


【授業スケジュール】
13:20 受付開始
13:30 授業開始、自己紹介
13:40 先生のお話
14:20 糸紡ぎWS
14:50 記念撮影
15:00 授業終了


授業コーディネーター:荒木萌
よく晴れた3連休の最終日、堀川沿いに位置する”納屋橋ラボ”で、静かに授業が始まりました。



先生は「池山衣料研究所」の活動をされている池山佑司さん。稲沢で衣料の自給に関する研究をされています。
スライドに色鮮やかなピンクの花の写真が映し出されました。この“綿花”から取れる綿をつむいで糸にして、アクセサリーやモチーフ、ネクタイや赤ちゃんのガラガラまでも作るそうです。最近では葛から布を作る「葛布」づくりもされておられます。
これらに限らず、味噌や梅干しや家庭菜園、廃缶を使ってエネルギーを自給したりと様々なものを自分でつくられています。最近では子供向けイベントにも力を入れているそうです。

ここで質問。
あなたの着ている服の素材は、どこから来たものでしょうか?
1着の服を仕立てたことがありますか?
布を織ったことがありますか?
糸を紡いだことがありますか?

…生徒さんからは(え…知らないしやったことないよ…)という反応。
そうなんです。いま大半の方が着ている服はおよそ海外製で、日本製としても素材は海外産のものがほとんど。そして糸紡ぎや機織りの経験は無いというのが一般的です。
明治時代前半までは、人々は綿花や麻を栽培し、糸紬や機織り、仕立てをも自給自足で賄っていました。これがイギリスで始まった産業革命(日本では明治中頃)がきっかけで布が安価になり、さらに第二次世界大戦後、綿花栽培や縫製は労働力の安い海外へ…との流れの中でどんどん服が安価になっていったそうです。
日本の衣服の自給率は、2010年の統計で数量ベースでは4%、原料ベースで見ると0%(0.00…数%)。それだけマーケットは輸入に依存しているのが実態です。



デザイン性・機能性ともに優れた衣服が安く買える時代では、同時に「衣服が本来の役割を果たせていない」「衣服が不幸を作り出している」という問題点も生まれているそう。
まず衣服の役割ですが、衣服には①身体を守る(保温、保護、動きの矯正、服薬)という動物的な要素と、②身体を飾る(性別、社会的地位の表示、自己表現)という人間的な要素がありますが、現代は②の要素が強くなっています。例えばスーツは正装ではありますが、楽に過ごすための服とは言い難く、またもともと寒冷なイギリスで生まれため日本の気候には合っていません。また例えばスキニージーンズは身体を締め付けるため、男性不妊の原因にもなると言われているそう。
ではいったい身体を守る役割を果たせる衣服とは?という疑問には、民族衣装がその答えになるとのことでした。寒い地域では毛皮をまとったり、暑い地域では薄い素材だったり、標高が高いところでは保温性に優れた服だったり。地域特有の衣装が合理的なのだそうです。

日本の民族衣装といえば着物が筆頭に挙がると思います。
先生の奥様・千佳さんは高校の頃冷え性に悩まされ、どんなに厚いタイツをはいても寒かったのに、着物を来たら暖かいと感じたそうです。着物は肌と生地との間に空気の層ができるため温度調節がなされ、また帯で丹田(おへその下あたり)を暖めることになるため身体を冷やさない効果があるとのこと。さらには歩き方が自然となんばあるき(あまり身体を捻らずにすり足で歩く歩き方)になるので長歩きが楽になるそうです。女性の場合は妊娠してもわざわざマタニティ服を買う必要が無いというメリットも。



続いて問題点の2つ目「衣服が不幸を作り出している」という点について、「ザ・トゥルー・コスト〜ファストファッション 真の代償〜」という映画を例にご説明いただきました。
映画ではインドのコットン農家の現状が取り上げられています。綿花は虫がつきやすいため、危険な農薬も大量に使用することでなんとか生産を維持しています。しかし当然のことながら環境被害や健康被害、また綿花栽培では食べていけないと自殺するケースもあるそうです。
大手ブランドの染色工場の排水が処理されないまま流される、インドネシアのチタルム川がゴミで埋め尽くされる(ぜひ画像検索してみてください)など…さまざまな環境被害のスライドに、生徒さんは真剣な表情で見入っています。

いわゆる開発途上国での農薬使用、遺伝子組み換え綿花、染色・縫製工場での病気や事故、工場排水などによる環境汚染、低賃金労働…
これらの様々な問題に対し、「先進国で衣の自給ができれば世界が変わる。かといって、1着100万円の着物を買えますか?」と先生が問いかけます。

本当はそれが正しい値段ではあるけれど、との前置きに続き、現代社会は大きくなりすぎたこと、また”本物”が減り人が物を大切にしなくなったことを指摘されました。
「霊長類の脳の大きさとコミュニティの大きさは比例する」というイギリスの文化人類学者・ダンバー氏の研究によると、人間の脳の大きさでは150人のコミュニティが限度なのだそう。また「小豆三粒を包める大きさの布は捨てるな」「布を切るのは肉を切るのと同じ」と言われるほど昔は布が大切にされていました。当て布の継ぎはぎを繰り返して衣服の形にした「ぼろ」と呼ばれる服は現在も浅草のアミューズミュージアムで展示されており、先生の布に対する想いがひっくり返された原点でもあるそうです。

工業製品はあまり人の手(=愛情)がかけられておらず、大切にされにくい。
それならば、身の回りで小さな社会を作り出し、手仕事を大切にする。
服でも野菜でも、愛情をかけて物をつくっていく。
そんな先生の生き方が凝縮された時間となりました。


お話のあとはいよいよ糸つむぎのワークショップ!

綿花をつむぎやすい形に丸めたものが一人ずつに配られました。
糸つむぎ、最初がいちばん難しいそうです。
利き手で綿の端をちょっと引っ張りながら捻って…を繰り返していきます。引っ張るのが早すぎると切れてしまい、遅すぎると太くなるため糸にならないのだとか。また手を放すと撚りが戻ってしまいます。
みなさん真剣な表情。「あ、切れた!」「これ太いかな~」「難しいーー!」なんて声が上がります。







続いて道具を使って長い糸作りにチャレンジ。
丸く切られた段ボールの真ん中に割り箸を差し込み、輪ゴムをぐるぐると引っ掛けていきます。
これでスピンドルの完成。

スピンドルをくるくる回しながら、紡いだ糸を割り箸に巻いていきます。
先生があっという間につくるのでみんなびっくり!
ちなみに綿花は手で紡いでいきますが、羊毛の場合は線維が伸びるため、足で紡ぐことができるのだそう。







あっという間に30分が経過し、糸つむぎワークショップの時間が終わりました。
ある生徒さんから、力を入れすぎても弱くてもうまくいかない。糸つむぎはまるで人とのつながりのよう、という感想がありました。
まさしくその通りだと感じます。

糸つむぎはとても非効率ではありますが、非効率なものはイコール不要ではないと先生は仰います。
食事を自炊・家庭菜園と非効率にするだけで自炊能力だけでなく子供もお手伝いができる。
家庭も3世代同居にすればおじいちゃん・子供に役割が生まれる。
非効率な手段を残して大切にする事はすべての人に役割を与えることとイコールである。
この非効率な手段を先生は“スピンドル・マインド”と呼んでおられました。

ついつい時間に追われるようなとき、お金で解決してしまいたいと思うとき。
“スピンドル・マインド”を思い出してみるだけで、ちょっと心がやわらかくなりそうです。

池山衣料研究所では、ほかにも様々な活動をされているそうですので、気になる方はぜひHPを覗いてみてください!
http://ikeyamaiken.base.ec/
https://www.facebook.com/ikeyamaiken/




レポート:井上麻衣
写真:あいざわけいこ

※写真をクリックすると拡大します。


 

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先生

池山 祐司 / 池山衣料研究所 代表/百姓/シンガーソングライター

1988年生まれ。京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。 自然の少ない都会に生まれ育った反動か、大学時代からは自然観察や山仕事サークルでの活動、林業地の旅行などであちこちの森へと通う日々を過ごす。 大学院修了後は“生きる力を付けたい”という想いから農園レストランに勤務し百姓修行を積んだ。 妻の第一子出産を機に愛知県稲沢市に拠点を移し、池山衣料研究所の活動を開始。 畑仕事から糸紡ぎ道具制作・販売、事務、子育て、家事までこなす育メン。

今回の教室

納屋橋ラボ

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