授業詳細
CLASS
モヤモヤ脱却のカギは、身の回りにあるかも?〜「リソースマップ」を描いてみる~
開催日時:2018年12月08日(土) 14時00分 ~ 16時30分
教室:三ツ川食堂
レポートUP
先生:
松浦秀俊 / 株式会社リヴァ 支援員・広報担当
鬼頭信 / やさいとお酒のお店 key to 店主
カテゴリ:【くらし】
定 員 :15人
誰だって1度は経験のあるこのモヤっとする気持ち。
たった1日だけの感情だったら良いけれど、それが毎日続いたら・・・
もしかしたら人間関係のせいかもしれない。
もしかしたら自分が何らかの病気なのかもしれない。
もしかしたら自分の甘えなのかもしれない。
・・・ここまで読んで、胸がザワザワっとした人。
真面目な人ですね(笑)。
でも、ありますよね。こういうシチュエーション。
自分の気持ちに素直に生きることと、この社会に適応することと。
うーん、自分らしく働くって、何なんでしょう。。
そこで行き詰まった私は、「自分らしく働く」ヒントをくれそうな2人の先生をお招きします。
一人目は、うつ病などの精神疾患の方の復職支援・再就職支援をする「株式会社リヴァ(東京都)」の支援員 兼 広報の松浦秀俊さん。
ご本人も「双極性障害Ⅱ型」という、いわゆる躁うつ病を抱えている当事者。あまり聞きなれない病名かもしれませんが、今年に入ってマライヤキャリーもこの障害の当事者であることをカミングアウトするなど、実は身近な人も抱えているかもしれない精神障害。
病を隠して葛藤していた頃から、家族や会社に病状をオープンにしながら仕事を続けられるようになるまでの体験談や、周囲とのコミュニケーションの取り方などを含めた「自分の感情との付き合い方」のお話は、病気であるかどうかに関わらず、働く一人の社会人として参考になることが多いのではないかと思います。
もう一人は、「野菜とお酒のbar keyto」のオーナー、鬼頭さん。
私が時々通うこのバーの鬼頭さんは、ロン毛と和装という目を引く格好とは裏腹に、笑顔が癒し系の、人当たりのとっても柔らかい男性。そんな鬼頭さん、実は21歳になるまで、ずっと引きこもっていたといいます。その長い引きこもり生活から、徐々に社会に出て行くまでには、どんなドラマがあったのでしょうか。
そして、趣味のお酒好きをきっかけに、名古屋市内でスポット的に「キトウバー」を開催したり、遂にはお店を構えるまでのストーリーも気になります。
今回の授業では、松浦さんからはご自身の約15年付き合っている心の病からの経験、そして鬼頭さんからは、引きこもりだった時のことのお話を伺いながら、「自分のマイナス面との付き合い方」を学んでいきたいと思います。
そして、お話を聞くだけでなく、生徒の皆さんそれぞれに、「リソースマップ」をつくるワークも行ってもらいたいと思っています。「リソースマップ」とは、その名の通り「リソース(資源)マップ(地図)」。家族や友人、いつも通っている病院など、自分の身の回りにある社会資源を可視化してみましょう。
授業が終わる頃には、きっと肩の力を抜いて人生を楽しむ気分になれるんじゃないかと思っています。
<おすすめポイント>
・少人数の参加型形式なので、先生との距離が近いです。
・双極性障害をはじめ心の病を持った当事者さんはもちろんのこと、周囲にそういう人が居る方にとっても「当事者の方との付き合い方」を学ぶことができると思います。
・場所は、先生である鬼頭さんが運営する「野菜とお酒のbar keyto」が入っている民家「三ツ川食堂」。授業が終わったあとは、ぜひ先生おすすめのハードリカーを堪能してみては?!
<スケジュール>
13:45 受付
14:00 授業スタート、自己紹介
14:15 先生のお話
15:20 休憩
15:30 ワーク
16:00 終了・写真撮影
(コーディネーター:エーコ)
『気づきで終わらせないで』
ちょっとの一歩でもいい。友達と「連絡を取る」ことがハードルが高いなら、「メールの文面を考える」だけで一歩になる。
『諦めると楽ですよ』
働くことを諦めたら、いつの間にかバーをやっていた。
今日の先生2人から最後のまとめの言葉をもらった。
「リソースマップ」って何?
「双極性障害」って何?
そもそも今日の授業は何をするの?
このレポートのページにたどり着いたあなたは、何が気になりましたか?
仕事にモヤモヤっとしている人、友達に誘われた人、自身も双極性障害という人、それぞれに背景のある色々な人がこの授業に集まった。
色々な人が集まったこの授業、でも、終わってみると…。
第1章 三ツ川食堂
名鉄と地下鉄鶴舞線が乗り入れる上小田井駅から、15分くらい歩いた場所にそれはあった。
三ツ川食堂。
一見すればただの民家である今日の教室は、知らなければ通り過ぎていたかもしれない。黒板の看板にチョークでオシャレに描かれた授業の案内を見て、会場であることに気が付く。
「振る舞い酒とみかんを用意しています。」
と声を掛けているのは今日の先生の1人である鬼頭さん。ここ三ツ川食堂でやさいとお酒のお店「key to」を開いている。ひきこもり経験者である。
小さな紙コップに注がれた甘い香りのハードリカーが緊張をほぐしてくれる。
畳の部屋の中央にローテーブルが並べられ、それを囲むように人数分の座布団が用意されている。懐かしく、そして、温かく感じるアットホームなこの教室で授業が始まった。
第2章 2人が語る
クイズです。次の3人共通することは?
1松浦秀俊(今日の先生。36歳、ニックネームはヒデ)
2チャン・グンソク(韓国の俳優)
3マライア・キャリー(アメリカの歌手)
答えは「双極性障害」であること。
「生きづらさと自分らしさ 双極性障害の経験から」と題したスライドがスクリーンに映し出されて、ヒデ先生が語り始める。
双極性障害を簡単に言うと「自分がコントロールできないほどの躁状態とうつ状態を繰り返すこと。」
「自分らしさと切り離せない双極性障害を、福祉の経験と合わせて表現してみたくなった」と今を語るヒデ先生のこれまでは、一言でまとめてしまえば「うねり」であった。
大学生時代:将来起業することを考えながら就職活動。4年生の時に双極性障害を発症(このときはうつ病と思っていた)。
1社目:名古屋で就職。ウェブショップ運営。元気であり病気と思わなかった。
2社目:縁があって千葉で独立。本を出版するも、その後自宅療養へ…。
3社目:著者という肩書で仕事のハードルが上がる。初めて休職し、その後退職。
4社目:障害者支援の企業で理解があった。ウェブマーケティングと広報の仕事。このとき28歳、うつ病ではなく双極性障害ということが判明する。
5社目:現在。入社して7年10か月(継続中)。
ざっとこの人生を聞いただけでアップダウンがすごい。
(ここで伝えきれないヒデ先生の人生は、ご本人が書かれたnote『双極性障害の勤めびと。たどり着いた自分らしい働き方』をご覧いただき、ぜひ生の言葉で感じていただきたい!タイトルをウェブ検索するとすぐに見つかります。)
しかし、軽躁状態である元気な時というのは、周囲の人が見てもそれが普通と思って、病気であることが理解されないことも多いようである。
自分の病気が分かって初めて「病気がそうさせているんだ」と受け入れるようになった。そんな今は、自分を良い状態に戻すにはどうしたら良いかと自分に向き合っている。
病気のことを分かってくれる友人、まずいと思ったときに相談できる上司、そして家族。フォローしてもらえるようにチームで仕事をしたり、弱音を出せるように周りに頼ったり。自分の体調を把握し、それに合わせてできる仕事を進めたり。
自分に向き合うというのは、病気でなくても働いているみんなにも共通することかもしれない。
2017年12月から顔出し実名でTwitterを開始したヒデ先生は、当事者という経験を活用して仕事をしている。病気がすべて悪ではない―勢いがあったから今の自分や仕事がある、と双極性障害の人のためのセンター設立というこれからの目標を語ってひとまず話を終える。
ヒデ先生の話が終わると、部屋の隅で一緒に聞いていた鬼頭先生―振る舞い酒とみかんを配っていた人―が前に出て語りだす。
今は30歳。中学校2年生の時に不登校になって引きこもりになる。いじめとかがあったわけではないけど、理不尽と感じることが積もった結果だった。
自分で自分のご飯のことを稼ぐことができていない、自立できないとだめなんだという思いが、追い詰めていっていたと振り返る。
転機が訪れたのは、不登校新聞をきっかけに初めて同じ経験をした人に出会ったこと。10人くらいの人と会い、「自分が存在してはいけない」というこれまでの思いから、「自立しなくてもいい」と思うようになった。
それからは、話し出したり、お酒を振舞ったり。お酒を振舞っていたらお金が厳しくなったから、イベントにしてみたり。このイベントが3か月に1回から月に1回に、そして、毎回の搬出入が大変だから固定のお店を持つようになって…。
短い言葉だけど、その1つ1つのギュッと込められた言葉には人生が凝縮されている。
ひとやすみ
2人が語ったあとに質問の時間が取られた。その中から1つを紹介したい。
質問:モヤモヤしていたときに「友達」に相談することと、「当事者会」へ行くこととでは違うのか?
ヒデ先生:病気のことは友達にも言っていなかったので、そもそも友達に相談するという選択肢がなかった。軽躁状態のことが理解されなかったのが、当事者会では「あるある」となる。
鬼頭先生:家族以外から「今何しているの」と聞かれるのがすごく怖かった。でも、当事者会ではそういうことを聞かないといのが暗黙のルールになっていて話がしやすかった。
言えること、分かっていること、その時々で状況は変わってくる。だからこそ、今の自分の周りにある資源を確認してみることが大事なのかもしれない。ということで、休憩後のワークショップへ…。
第3章 リソースマップ
A3の用紙が1人1枚ずつ配られる。用紙には十字に線が引かれ、4つに区分されている。中心に小さな円が描かれ、さらに大きなだ円がその外側に描かれている。
「これから描くのはリソースマップ。リソースはつまり役に立つもの。みなさんと、家族、友人、仕事、医療機関、思い出の場所など社会資源との関係を描いていきます。」
上側のエリアは現在つながっているもの、下側のエリアは過去につながっていて今は薄くなっているもの。左側は個人的なもの、右側はパブリックなもの。
中心からの距離は、物理的な距離をあらわす。大きく描かれた楕円は、物理的な距離の目安(例えば、愛知県の内外の境目とか、自分で決める。)
次の手順でそれぞれのリソースマップを作っていく。
・まず、中心の小さな円に「自分(ニックネームとか)」を記入。
・自分に関わっている人や場所、コミュニティ(職場、施設、サークル等)を記入。このとき、 自分を中心にして物理的な距離に応じて描いていく。
・関係性の濃度に応じて色を付ける(3段階くらい)。
書き終わったら、2人1組になってお互いにシェア。
お互いのリソースマップを見比べてみると、これもリソースになるんだと気が付くこともある。「ここのカフェはよく行く場所」「この趣味は最近時間がとれなくて」と、話しているうちにあらためて自分と向き合うきっかけにもなる。
ここでリソースマップを描きながら何となく気になっていたことを先生が解説してくれた。
―なぜ物理的な距離、自分からリソースまでの距離で分けたのか?
困ったときに近くにいる人には頼りやすいので、近くに濃い関係をつくるきっかけになるよう距離で分けている。いざという時に頼れるように、今からきっかけをつくっていけるといい。
―リソースは多ければ多いほどいいのか?4つに分けられたエリア全体に満遍なくリソースがあった方がいいのか。
多いからいいというわけではなくて、正解はない。薄く広くあっても疲れるという人もいる。自分がしっくりくるリソースや関わり方はそれぞれ。現状を描き出してみて、今のままでいいのか、もう少し何か必要なのか、これからを考えるのが大事。
「次の一歩をどう踏み出すのか、どことどのように関わっていくのか。今日は時間がないのでここまでだけど、これで終わりにしないでくださいね。」
エピローグ
「気づきで終わらせないで」
「諦めると楽ですよ」
先生からの最後の言葉は、今日の授業を受けたみんなへの言葉。周りにどんなリソース(資源)があるのか、必要なのか、何が最適かなんてことは1人1人違うけれど、一度描き出してみることで次につながる手掛かりになる。
色んな人が集まった授業だったけれど、終わってみるとそれぞれの次の一歩を踏み出す方向を見つけようとしていた。
授業が終わって外が暗くなった頃、鬼頭先生のお店「key to」がオープン。たくさんの生徒がアットホームなお店の中に吸い込まれていった。
レポート:加藤拓
写真:あいざわけいこ
先生
松浦秀俊 / 株式会社リヴァ 支援員・広報担当
株式会社リヴァにて支援員・広報担当をしながら、 双極性つとめびととして、双極性障害の当事者で企業勤めをしている。精神保健福祉士、産業カウンセラーとして活躍。 1982年生まれ。名古屋工業大学出身。21歳で双極性障害を発症して以降、20代で転職3回・休職4回を経て、(株)リヴァの社会復帰サービスを使用し、後に同社入社。現在、勤続7 年目(現職での休職0回)。プライベートでは、東京で妻・息子の家族3人で暮らす一方、「双極性障害×はたらく」をテーマとする当事者会「#双極トーク」を主催。
鬼頭信 / やさいとお酒のお店 key to 店主
1988年生まれ。30歳。 中学2年生から不登校になり、その後フリースクールや高校、大学等まったく行かずひき こもりに。 21歳のときに“不登校新聞”を通じて同じ不登校やひきこもりを経験している人たちと出会 い、それがきっかけで家族以外の人と徐々に関わるようになる。 現在はbar店主と不登校新聞でWEB関係をしつつ、日々飲み歩く。 *やさいとお酒のお店 key to https://keyto.itdr.biz/
今回の教室
三ツ川食堂
住所:〒452-0814 愛知県名古屋市西区南川町302
(名鉄犬山線・地下鉄鶴舞線「上小田井駅」/地下鉄鶴舞線「庄内緑地公園駅」からそれぞ
れ12分ほど)
地図を見る
「三ツ川食堂」は、名古屋市西区上小田井にある、民家に手を加えてつくられた「レンタ
ルスペース」×「小商い」の場です。地域の小商い(こあきない=お店やさんなどのご商
売)が活性化することで、自然に人々があつまり、人の回遊が生まれ、まちにさらに活力
がみなぎる。この「三ツ川食堂」は、その小商いのひとつとして開所することになりまし
た。
ちなみに「三ツ川(みつかわ)」というのは、庄内川・新川・矢田川という、3つの川に
囲まれた地域のブランド名。上小田井のこのエリアを「三ツ川タウン」と呼んでまちづく
り活動しています。