「僕は普段、ファジーテーブルという屋号で出張料理人をしています。ファジーは『曖昧な、はっきりしない』という意味。僕は依頼に応じて料理のジャンルも変えるし、店舗もないので。」
「テーブルは大切にしているものです。同じテーブルについて料理を食べると共通の関係が生まれますよね。だからこの2つの言葉を併せています。」
「僕は特別な存在ではないですが、好きなことをちょっと頑張ってみようと思いました。普通の人が自分のことを少しだけお喋りしている感じで、笑って聞いてください。」

今日の大ナゴヤ大学は、先生である佐藤光さんのこんな言葉から始まりました。先生はサラリーマンとして働きながら、様々な場所で料理を振る舞う出張料理人をされています。
【好きなことを仕事にする】というテーマの本授業。
生徒の皆さんの参加理由も様々です。
「先生の話を聞きたい」「先生が手がけられている『ほやほやnight』に興味がある」「人生100年時代の中で自分のやりたいことをどうやっていくかヒントを得たい」「企画をしたい人とつながりたい」等々。
わくわくしながら先生の話に耳を傾けます。



佐藤先生が料理を始めたきっかけはパワプロだそうです。
誰もテレビを使わない早朝にパワプロをプレーしていく中で、休みの日の朝食をご自分で作っていくようになったのだとか。
そのご経験もあってか、大学生のときには、飲食店の厨房スタッフでアルバイトをされるようになりました。お昼からお店に入って、魚を受け取り、下ろして準備をするところまで任されていたそうです。
しかし、就職活動の時期。周囲の人間が何者かになっていく中で、先生は悩み始めることになります。

「僕は板前に憧れていました。ただ、本当に料理人を目指している人は、それこそ中学生の頃から修行しているはず。間に合わないのではないかと思いました。」

そこで、食べ物に関わる仕事に就こうと考えられ、就職されました。
営業に配属された佐藤先生は、あることを痛感するようになります。

「そこら辺に美味しい野菜が転がっていることに誰も気づかないんです。これはもったいないと思い、料理を再開することにしました。本当の野菜の美味しさと魅力を、誰かに伝えられたら良いなと考えたのです。」
しかし、美しく盛り付けた料理を「お店みたい」と褒める言葉が、かえって胸に刺さったそうです。

「夢がすぐそばにあるのに、手が届いていない感覚がしました。」
「でも、それならサラリーマンをしながらお店を出してみたら良いのではないかと思ったのです。」
「どこか場所を借りてお店を始めることもできる。しかし、集客の難しさや食品ロスの問題もある。それならば、人が集まる場所に行って料理をしたら良いのではないだろうか。」

「誰しも好きなものはある。でもそれを上手に表現できずに悩むこともあるだろう。自分はそのきっかけになりたい。僕は料理ができる。僕が関わることで、料理を通して、何かをすることに対してハードルを下げたり、より盛り上げたりすることができるのではないだろうかと思いました。」



先生はその後、「防災」や「ドッグラン」、「社会問題（米の担い手不足）」など、様々なジャンルと料理を掛け合わせた場を作ってきました。
授業情報にて紹介されていた「ほやほやnight」も、その一つです。

「料理が苦手だけど、ほやがとても大好きという方の情熱に魅力を感じ、ほやのフルコースを作ることにしました。癖が強い魚なので、初めて食べた人に苦手意識を持たれないようなメニューを考えています。今年の4月で10回目を迎えますね。」



なんと今日は、この企画を味見させてもらえることに！
先生が作られた3種類の料理がテーブルに並び、皆でいただきました。
ドキドキしながら口に入れると、磯の香りがいっぱいに広がります。
ぷりぷりした食感と、ウニやカキを思わせる海の味が面白く、一緒に食べた野菜も良さを引き出しているようです。
思わず笑顔になりながら、皆で佐藤先生のホヤ話に耳を傾けます。
サラリーマンのお仕事を続けながら、時にはホヤ漁の船にも乗られているという先生のお話は発見が多く、またホヤや野菜への愛情に溢れていました。



お腹も心も満たされた後は、皆で「好きなことを実現する」ための企画を考えます。
佐藤先生の料理と、一人一人の「やりたいこと」をどのように掛け合わせると良いか考え、共有しました。
ここでは、そのほんの一部を紹介します。
・ホヤ×ワイン、ホヤ×マイナー魚介（今日のホヤが美味しくて、忘れられないから…！）
・猫×食（猫まんまでも良いし、猫も食べられる食事でも良い！）
・管理栄養士×食（病院食や、学生でも作れるカロリーと栄養が両方とれる料理をテーマにしたい）
・発酵×食、着物×食（どちらも興味があって続けているもの。）
・野菜嫌い×野菜（料理人の本気が見たい！）
・ミリメシ×料理人（あまりおいしくないとされる軍隊食を料理人が作るとどうなるか。）
・山歩き×ホヤ（ホヤの栄養価が高い話を受けて。みんなでホヤマ歩きをしたい。）



様々なアイディアが、発案者の熱弁と共にテーブルに並びます。
生徒の皆さんのアイディアに、佐藤先生も唸ってみえました。

「初めて聞く言葉もあれば、ずっとやりたいと思っていて忘れていた言葉もありました。どれもとても良いアイディアで、ゆっくり見直したいです。」



佐藤先生も私たちも皆、好きなことがあり、時に葛藤し、毎日考え事をしながら生活している「普通の人」です。
そんな「普通の人」が何気なく思ったことや、静かに大切にしている思いが、時に誰かにとって「面白い」ものになるかもしれない。
やりたいことをカジュアルにできるようになれたら、そしてその思いを誰かと分かち合えたら、改めて素敵だなと思わせてくれた時間となりました。



レポート：まつじゅん
写真：さくら