授業詳細
CLASS
本丸御殿を飾る漆工芸―江戸の姿が蘇るまでの裏側を語る―
開催日時:2024年03月16日(土) 18時00分 ~ 20時00分
教室:名古屋城本丸御殿 孔雀之間
レポートUP
先生:
太田洋志 / 塩尻・木曽地域地場産業振興センター 専務理事
カテゴリ:【城子屋/歴史・文化】
定 員 :35人
※参加費:500円(別途名古屋城観覧料が必要)
※申込みは当ページ「この授業に申し込む」から。2024年3月14日(木)12時00分まで(先着順、満席になり次第締切)。
※講座当日の受付場所は名古屋城「正門」前です。
※会場は和室のため、座布団にご着席いただきます。机の用意はございません。
約400年前の名古屋城築城時、そして平成の本丸御殿復元でも用いられた木曽・裏木曽の木材、木が育つ森を守ってきた山守の存在、金鯱の由来、かつて城内にあった庭園の調査、城下町で流行した文化、江戸時代の経済、本丸御殿復元に貢献した伝統の技など、さまざまな切り口から名古屋城そのものや尾張藩について学ぶ講座を実施しています。
講師を務めるのは、歴史、技芸、教育、文化などの研究者や伝統を受け継ぐ人たちや、名古屋城の調査研究に携わる現役学芸員。現在進行中の発掘調査に関する報告を発表する講座もあります。
本丸御殿・孔雀之間で、名古屋の「城」と「まち」について学びを深めていきましょう。
今回の講座で取り上げるのは、名古屋城本丸御殿の復元に関わった「漆工芸」です。
城子屋の教室でもある名古屋城本丸御殿は、さまざまな資料をもとに、伝統的な技法を用いて、江戸時代の姿を忠実に復元されました。数々の技の中でも、建具を美しく飾る漆工芸をクローズアップしてみましょう。
講師は、塩尻・木曽地域地場産業振興センター専務理事の太田洋志さん。長野県の木曽平沢からお越しいただきます。木曽平沢は、「漆工町」とも呼ばれ、中山道随一の漆器のまちとして栄えてきた地域です。講座では、太田さんから、漆工芸に関する基礎知識、木曽平沢について、そして、本丸御殿復元にまつわるエピソードなどを学びます。さらに、夜の本丸御殿を見学し、漆工芸の建具を見ながらご解説いただく時間も。煌びやかな本丸御殿ができるまでの裏側を新たな角度からのぞいてみませんか。
<スケジュール>
17:45 名古屋城正門にて受付開始
18:00 本丸御殿孔雀之間に移動
18:15 講座開始
前半は座学、後半は本丸御殿内の見学
19:45 終了、孔雀之間を退出
20:00 解散
主催:名古屋城(名古屋市)
運営:大ナゴヤ大学
【城子屋】
かつて読み書き算盤を学ぶ「寺子屋」が地域に開かれていたように、名古屋城をまちに暮らす人たちの学びの場とするプログラムです。城やまちに関する知識を深められる、老若男女誰もが参加できる場をつくります。
【過去開催した講座】
・尾張藩とまつり
https://dai-nagoya.univnet.jp/subjects/detail/670
・名古屋が愛し支えた能・狂言−江戸時代の名古屋城内外における能役者の境遇−
https://dai-nagoya.univnet.jp/subjects/detail/678
・積直しから読み解く名古屋城石垣の歴史
https://dai-nagoya.univnet.jp/subjects/detail/679
先生を務めるのは、「塩尻・木曽地域地場産業振興センター」専務理事で本丸御殿復元事業に漆塗り責任者として参加した太田洋志さん。当日は長野県・木曽平沢からお越しいただきました。
講座の前半は、漆や木曽漆器の歴史、特徴といった基礎知識の解説と、本丸御殿復元事業のあらましについて講義が行われました。
漆の材料は、ウルシノキに代表されるウルシ科の樹液(エマルジョン)。樹液を集める漆掻き職人が「漆の一滴は血一滴」と言うほど、大切に扱われてきました。
漆は「麗し(うるわし)」「潤し(うるおし)」、あるいは「潤汁(うるしる)」「塗汁(ぬるしる)」などが語源といわれ、「潤=光沢」の意味を含んでいると考えられているといいます。つややかな光沢が特徴なので納得です。ちなみに、字源は「木から汁が流れる形」だそうです。さんずいが使われているのは、汁の意味合いが大きかったからなのでしょうね。
また、樹液には空気中の水分と反応して硬化する性質があるのだとか。酸にもアルカリにも強く抗菌作用があるなど、食器として使う場面を想像しても、使い勝手が良さそうと感じます。
ただその製造工程はとても細かく、本当に時間のかかるものです。「埃などの付着物があったら、表面を研いでイチからやり直しです」と太田さん。本丸御殿のふすまの縁や天井など、いたるところに漆塗りがあることを考えると、復元にはどれほどの時間を要したのだろう……と途方もなく感じます。
太田さんをはじめ職人の皆さんは本丸御殿復元にあたり、漆塗りはもちろん金箔や蒔絵などの加飾も手がけました。加飾部分は600カ所以上。すべて絵柄が異なり、その一つひとつをすべて、当時の姿のまま再現したといいます。
「建具にこれほどの蒔絵を施すことはそうそうありません」と太田さん。「それだけ、本丸御殿の建設には力が入っていたのでしょう。もしかしたら絵柄が少しずつ異なるのは、短工期で仕上げるために人海戦術で加飾をしていたからかもしれませんね」と、想像をめぐらせていました。
後半は太田さんの解説のもと、夜の本丸御殿を見学しました。
「漆に注目して本丸御殿を観賞することもなかなかないでしょう」と太田さん。
ふすまの縁を指差し「さきほどお話ししたように、少しずつ絵柄が異なりますよね」と紹介した際には、「本当だ!」との声が上がる場面もありました。
復元時のエピーソドを交えながらの太田さんの職人さん目線の解説に、生徒の皆さんも写真を撮ったり、メモを取ったりしながら耳を傾けていました。
見学から戻ると、太田さんが持参した資料やサンプルを生徒の皆さんとともに囲む時間もありました。加工の工程などを目にできる機会はなかなかないことかと思います。太田さんに「これは何ですか?」とわいわいと質問をしていたのが印象的でした。
何度見ても、毎回新たな発見がある本丸御殿。これまでにもたくさんの職人さんの解説を耳にしてきましたが、まだまだ発見がありそうです。
カメラ・レポート/伊藤成美
先生
太田洋志 / 塩尻・木曽地域地場産業振興センター 専務理事
伝統工芸である木曽漆器産業を中心に、地場産業の振興に従事。重要文化財などの修復にも携わり、社寺建造物の漆塗装を行う。名古屋城本丸御殿の復元工事では、一次協力業者として、塗装工事の業務を担当した。
今回の教室
名古屋城本丸御殿 孔雀之間
住所:〒460-0031 愛知県名古屋市中区本丸1−1
※教室は和室です
地図を見る
徳川家康の命によって建てられた、尾張徳川家の城・名古屋城。その一角をしめる本丸御殿は、尾張藩主の住居かつ藩の政庁として1615年(慶長20)に完成。1945年(昭和20)、空襲により残念ながら焼失し、永らく復元が待ち望まれてきました。幸いなことに、江戸時代の図面や記録、昭和戦前期に作成された実測図、古写真などが残されていたため、2009年(平成21)から復元工事を開始。第一級の史料をもとに、他では類を見ない正確さで忠実に復元を進めてきました。2018年(平成30)には、江戸幕府将軍家光の宿泊のために建造された最も格式が高い「上洛殿」や「湯殿書院」が完成し、その優美な姿を公開しています。